私が中国に語学留学した1993年当時、中国にはおよそ8300万人もの障害者がおり、そのうちの1233万人が視覚障害者でした。
中でも視覚障害者を取り巻く社会的状況は厳しく、進学、就職、婚姻等で、かなりの制約を受けていました。そうした中、中国の視覚障害者に日本語を教えて、日本に留学させ、針・灸・按摩マッサージや、社会福祉を学ばせることで、中国国内の視覚障害者の能力開発・職域拡大を行える視覚障害リーダーを育成しようと、1994年に世界初となる、中国の視覚障害者を対象とする、天津市天津視覚障害者日本語訓練学校を設立。
併せてその運営母体として、埼玉県さいたま市内に「アジア視覚障害者教育協会」を立ち上げました。
さらに障碍者と健常者が共に学び会える場を手提供すべく、1999年からは、視覚障害者の日本語学習を支えるボランティアとして、健常学生の受け入れを始めました。教育におけるバリアフリー「世界に一つだけの学び屋」の誕生です。

開学以来、60坪程度の小さな私学ながら、受け入れてきた学生の数は、障碍者と健常者を合わせると、実に478名にも達します。そのうち視覚障害学生は241名で、8名が日本に留学し、弱視2名が天津市内にある日系企業に就職しました。経済的負担となりうる授業料は、一切徴収しておりません。
そのかいあって、「夢はないほうがいい。夢があると、かえって辛くなる」と、半ば自暴自棄に陥っていた中国人視覚障害学生の間にも、日本語を身に付けることで自己実現を図り、差別や偏見に基づく社会的バリアを徐々に取り除いていこうという、意欲が芽生えました。健常者の学生達もまた、障害者とともに学び中で、お互いを「一人の人間」として受け入れ理解し、助け合い励ましあいながら、各人の能力と人格の向上を目指すことを学びました。優越感に根ざしたプライドは完膚なきまでに打ち砕かれ、一子同心の精神が宿った、と小皇帝たちは口をそろえます。
障害者の自立支援教育には、語学学習もさる事ながら、コミュニケーション力や身だしなみ、精神修養など、社交性を身に付けさせる教育が不可欠です。とりわけ女性にとって、化粧や着こなし、立居振る舞いなどは、ステータスアップを図る上で要となります。「視覚障害者にお化粧なんて無理ですよ。鏡を見ながらできないんですから」。健常者の言葉なら未だしも、視覚障害者自身が、はじめから「化粧はできないもの」と思い込んでしまうことが残念です。この「バリア」を取り除かない限り、どんなに教養を身に付けても、どんなブランド品で着飾ってみても、ステータスアップには繋がらないでしょう。
二年前、知人を通して大石華法先生が代表を務めておられる「日本ケアメイク協会」のことを知りました。中国の視覚障害者たちが大石先生のケアメイクのノウハウを習得すれば、彼らの社会参加の機会はさらに拡大するでしょう。そうした折、大石先生ご自身からお電話をいただき、十月九日から十一日まで中国の天津で、「ブラインドメイクを通して日中交流を」という企画が持ち上がりました。「障害者自立支援教育」とは、障害当事者が社会的、身体的制約を突き崩し、内なる活力に従ってあらゆる方向に伸びようとするのを手助けすることである、とわたくしは確信しております。「制約」とは逃れようのない宿命などではなく、未知なる可能性に向かって踏み出すための素晴らしい「チャンス」なのです。鏡を見ながら化粧ができないのなら、指を使って練習を重ね、メイクの技能を習得すればいい。それこそがハンディーを乗り越えることであり、健常者に決して引けを取らない、健常者をも凌駕する原動力となるのではないでしょうか。まさしく「生きる力」にほかなりません。
折しも今年は、日中平和友好条約締結四十周年に当たります。ブラインドメイクの技能が日中の視覚障害者を繋ぐ絆となれば幸いです。この企画を是非とも成功させるために、皆様の深いご理解とご協力を切にお願い申し上げます。

2018年5月18日
青木陽子